・・・「じゃ、何でも君に一任するから、世間の手品師などには出来そうもない、不思議な術を使って見せてくれ給え。」 友人たちは皆賛成だと見えて、てんでに椅子をすり寄せながら、促すように私の方を眺めました。そこで私は徐に立ち上って、「よく見・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、すべて国家についての問題においては、まったく父兄の手に一任しているのである。これ我々自身の希望・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 人を、いのちも心も君に一任したひとりの人間を、あざむき、脳病院にぶちこみ、しかも完全に十日間、一葉の消息だに無く、一輪の花、一個の梨の投入をさえ試みない。君は、いったい、誰の嫁さんなんだい。武士の妻。よしやがれ! ただ、T家よりの銅銭・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・昼は大抵沖へ釣りに出るので、店の事は料理人兼番頭の辰さんに一任しているらしい。沖から帰ると、獲物を焼いて三匹の猫に御馳走をしてやる。猫は三毛と黒と玉。夜中に婆さんが目を醒した時、一匹でも足りないと、家中を呼んで歩くため、客の迷惑する事も時に・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・この選定はむしろ百貨店の支配人に一任すればよい。 某百貨店の入口の噴水の傍の椰子の葉蔭のベンチに腰かけてうっとりしているうちに、私はこんな他愛もない夢を見ていたのである。 二 地図をたどる 暑い汽車に乗って遠方・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・の一人なりが試験的の監督となりリーダーとなってその人が単に各句の季題や雑の塩梅を指定するのみならず、次の秋なら秋、恋なら恋の句をだれにやらせるかまでをも指定し、その上にもちろんできた句の採否もその人に一任するとして進行したらどうであろうか。・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・拙著の版権問題について賠償金の事を山本さんに一任したのは、累禍を他人に及す事を恐れたが故であった。 拙著「あめりか物語」の著作権は博文館が主張するが如く、其の専有に帰しているものではない。同書の原稿は明治四十年の冬、僕が仏蘭西にいた時里・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・あるくらいに単位意識が明暸でなければならぬと云う事と意識の推移がある法則に支配せらるるやと云う事になりますから、問題がよほど込入って来ますが、今はそんな面倒な事を御話する場合でないから、諸君の御研究に一任する事として講話を進めます。もっとも・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・のことは、前大会での提案者徳永直の報告に一任されている。「民主主義文学運動についての報告」の、最後の部分「日本民主主義運動の深まりやはげしさを強力に反映する創造や批評の活動につきすすむ」必要、「全人民の民主化運動のなかに成長しはじめている」・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・「議長一任!」 大会は、朝鮮プロレタリア作家同盟ばかりでなく、他の友誼団体へのメッセージ起草をも決議した。 討議は正味八時間余ブッ通して行われ、日本プロレタリア作家同盟は第三回大会で、内容的に、一歩、確然たる前進をした。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫