・・・即ち、生き得る条件の下に置かれざる者にも、一律的に消費の義務をはたさせようとするが如き、これです。たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつある・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・君はその屋根屋根のしたの百万の一律な生活を思い、眼をつぶってふかい溜息を吐いたにちがいないのだ。見られるとおり、郊外の屋根屋根は、それと違う。一つ一つが、その存在の理由を、ゆったりと主張しているようではないか。あの細長い煙突は、桃の湯という・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ノオトのおなじ文章を読み、それをみんなみんなの大学生が、一律に暗記しようと努めていた。われは、ポケットから煙草を取りだし、一本、口にくわえた。マッチがないのである。 ――火を借して呉れ。 ひとりの美男の大学生をえらんで声をかけてやっ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・現在ではただ与えられたいわゆるスターの生地とマンネリズムとを前提として脚色はあとから生まれるから、スター崇拝者は喜ぶであろうが、できたものは千編一律である。もっともこれは日本の映画に限らない世界的の傾向かもしれないが、自分の不満はこの一般傾・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・そうしてみた後にわれわれは、事によると、せっかくのその修正の成果が意外にも単調一律なよそ行きの美句の退屈なる連鎖になりおおせたことを発見して茫然自失するようなことになりはしないか。 連句と音楽とのいろいろな並行性を考えるときに、いつも私・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そのこととして、これはもとよりわるいことでないし、一種の政治性で文学が吹きまくられ一律化されようとした危険のあったとき、それは必然に作家の文学というものへの本能から生じた文学の成長を護る態度であった。 だが、生活の実感、生ける姿というも・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 兄弟、姉妹の間にあるそういう微妙で苦しいものも、親たちにとっては一律に子であるということから余り気にかけないのも、自然であるのだろうか。私はよくその弟には殺されそうに思って号泣したくらいだったのに。 この弟は、大正九年の大暴風の日・・・ 宮本百合子 「青春」
出典:青空文庫