・・・……何不足のない身の上とて、諸芸に携わり、風雅を楽む、就中、好んで心学一派のごとき通俗なる仏教を講じて、遍く近国を教導する知識だそうである。が、内々で、浮島をかなで読むお爺さん――浮島爺さんという渾名のあることも、また主人が附加えた。「・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・孫の成長とともにすっかり老いこみ耄碌していた金助が、お君に五十銭貰い、孫の手を引っぱって千日前の楽天地へ都築文男一派の新派連鎖劇を見に行った帰り、日本橋一丁目の交叉点で恵美須町行きの電車に敷かれたのだった。救助網に撥ね飛ばされて危うく助かっ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・に於て取られた言語体の文章は其組織や其色彩に於いて美妙君のの一派とは大分異っていた為、一部の人々をして言語体の文章と云うものについて、内心に或省察をいだかしめ、若くは感情の上に或動揺を起さしめた点の有った事は、小さな事実には過ぎなかったにせ・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・マラルメやヴェルレエヌの関係していた La Basoche, ヴェルハアレン一派の La Jeune Belgique, そのほか La Semaine, Le Type. いずれも異国の芸苑に咲いた真紅の薔薇。むかしの若き芸術家たちが世界・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ モンタージュという言葉を抽出し、その意義を自覚的に強調したのはプドーフキン一派の人に始まるかもしれないのであるが、要するにモンタージュは平凡な「編集」という言葉をもって代用してもたいしてさしつかえないという事はプドーフキンの著書の英訳・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ こんな話をしていたらある人がアヴァンガルドという一派の映画がいくらかそういう方向を示すものだと教えてくれたが、まだ実見することができない。 ここまで書いて後にウーファ社の教育映画で海の浮遊生物を写したものを見た。顕微鏡で見る場合で・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ある時はまたXの方向に振動する偏光を見ている一派と、Yの方向に振動する偏光を見ている他の一派とがけんかをする。言う事が直角だけちがう。しかし、ちょっとニコルを回してみれば敵の言いぶんは了解されよう。かたよらぬ自然光で照らせば妙なブラッシの幽・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・軽妙な仕上げを生命とする一派の人の眼で見ればあるいは頭痛を催す種類のものかもしれない。それだけに作家の当該の自然に対する感じあるいはその自然の中に認めた生命が強い強度で表わされていると思った。それからまた「清水」と「高瀬川」という題で、絵馬・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ある歌人の話では、比較的少数なその一派で気の狂った人が五六人はあるという。ある俳人の一門では長年の間に一人二人自殺した人はあったが、それはその人たちが長く俳句から遠ざかった後のことであったという。 要するにこれは全く自分の空想に過ぎない・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・それは仲間に入れてもらえなかった人の怨恨によるともいわれ、またクロトンの市民等がピタゴラス一派の権勢があまり強すぎて暴君化することを恐れたためともいわれている。とにかくピタゴラスはにげ出して行くうちに運悪く豆畑に行き当った。そこでかれは、戒・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
出典:青空文庫