出典:青空文庫
・・・「いつか、羽織の裾を背中に背負ったままの姿で、ここへお銚子を持って来た事があったけれども、あんなのは、一目瞭然、というのだ、文学のほうではね。どだい、あんな姿で、お酌するなんて、失敬だよ。」「あんな事ばかり。」 平然たるものであ・・・ 太宰治 「眉山」
・・・はじめから赤鉛筆を手にもって、べたスジをひくことにして読みはじめたものであることが一目瞭然であった。赤スジのないところには、文章さえのこっていないのだから、小説として発表が出来るわけもない。「その年」のようにおだやかな作品でさえもそういう取・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・らの作家たちは無産階級運動とその芸術運動の擡頭しはじめた日本の新しい社会と文学の動揺のなかに、各自の発展の道を求めなければならなかったのであったが、これらの人々がこんにち自身をおいている状態からみても一目瞭然であるとおり、誰もが自身の既成文・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・総数四六四名の代議士が、各自所属している政党を眺めても、これは一目瞭然であろう。自由党 一三六名 五名 計 一四一名進歩党 八七名 六名 九三名社会党 八四名 八名 九二名協同党 一四名 ナシ ・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・そこまでは比較的自然に運ばれて来た観客の感情がそのような場面に近づくにつれ次第に不自然な道どりに引き入れられて、いわゆるクライマックスでは一目瞭然たる張子の森林などの中に恋人たちとともに案内されるのは迷惑である。そういう点だの技術的な俗習、・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・こんどは、又この次の便利のために、必要なところには昔の人のはり紙のように紙を貼って見出しを書いて居ります。一目瞭然で大変によろしい。その紙の切ったのを沢山こしらえて、一つの小さい箱に入れておいてある。その箱はパリで、母が誰かのおみやげにやる・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・物質的な生産の行為は一目瞭然のことである。だがその行為が人間生活の中にかかわりあい、様々の生きた意味をもってくる経路は、誰の目にもいつもはっきり見えているとは言えない。その経路を生産の場面に働く人間の存在の条件或はその状態から語る労働として・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・さらに長谷川如是閑氏が、文化の発展との関係において民衆のもつ自由と統制をどう見ているかということと、林房雄氏の日本観との間に或る開きがあることは一目瞭然なのである。こう見て来ると、今のところこれらアカデミックな人々の体面感を傷つけずに参与を・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 日本の現在までの婦人作家が、どういう階級から出て来ているかということを考えても、事実は一目瞭然だ。 日本の既成の婦人作家はプロレタリア作家といわれている人々をこめて、没落した小市民層かそれより以上の経済的基礎をもった層から出ている・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。 この位置のきまったという感は、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」