・・・今では堀田伯の住邸となってる本所の故宅の庭園は伊藤の全盛時代に椿岳が設計して金に飽かして作ったもので、一木一石が八兵衛兄弟の豪奢と才気の名残を留めておる。地震でドウなったか知らぬが大方今は散々に荒廃したろう。(八兵衛の事蹟については某の著わ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ふたたび貝石うる家の前に出で、価を問うにいと高ければ、いまいましさのあまり、この蛤一升天保くらいならば一石も買うべけれと云えば、亭主それは食わむとにやと問う。元よりなりと答う。煮るかと云うに、いや生こそ殊にうましなぞと口より出まかせに饒舌り・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・碁を打つ者は五目勝った十目勝ったというその時の心持を楽んで勝とうと思って打つには相違ないが、彼一石我一石を下すその一石一石の間を楽む、イヤそのただ一石を下すその一石を下すのが楽しいのである。鷹を放つ者は鶴を獲たり鴻を獲たりして喜ぼうと思って・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・日本の米のねだんは一石四千二百五十円でしょう? 輸入米は同じ一石が九千六百七十一円よ。誰が考えたってへんなことだと思うわ」 あきれかえるわねえ。でも、しようがないわ、どうせいまの政府だもの。―― 考えてみるとわたしたちの日常生活に「・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
出典:青空文庫