・・・「まあ、御一緒に歩きましょう。私はあなたとしばらくの間、御話しするために出て来たのです。」 オルガンティノは十字を切った。が、老人はその印に、少しも恐怖を示さなかった。「私は悪魔ではないのです。御覧なさい、この玉やこの剣を。地獄・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・妹の所へ行けば、二人とも一緒に沖に流されて命がないのは知れ切っていました。私はそれが恐ろしかったのです。何しろ早く岸について漁夫にでも助けに行ってもらう外はないと思いました。今から思うとそれはずるい考えだったようです。 でもとにかくそう・・・ 有島武郎 「溺れかけた兄妹」
・・・B どうだ、おれん処へ来て一緒にやらないか。可いぜ。そして飽きたら以前に帰るさ。A しかし厭だね。B 何故。おれと一緒が厭なら一人でやっても可いじゃないか。A 一緒でも一緒でなくても同じことだ。君は今それを始めたばかりで大い・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・……さあ、一緒に。」 優しく背を押したのだけれども、小僧には襟首を抓んで引立てられる気がして、手足をすくめて、宙を歩行いた。「肥っていても、湯ざめがするよ。――もう春だがなあ、夜はまだ寒い。」 と、納戸で被布を着て、朱の長煙管を・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ 今一緒に改札口を出た男女の客は、見る間に影の如く闇に消えて終った。軒燈の光り鈍く薄暗い停車場に一人残った予は、暫く茫然たらざるを得なかった。どこから出たかと思う様に、一人の車屋がいつの間にか予の前にきている。「旦那さんどちらで御座・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・もう一遍君等と一緒に寄宿舎の飯を喰た時代に返りたい」と、友人は寝巻に着かえながらしみじみ語った。下の座敷から年上の子の泣き声が聞えた。つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。「あれやさかい厭になってしまう。親子四人の為め・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・軽焼が疱瘡痲疹の病人向きとして珍重されるので、疱瘡痲疹の呪いとなってる張子の赤い木兎や赤い達磨を一緒に売出した。店頭には四尺ばかりの大きな赤達磨を飾りつけて目標とした。 その頃は医術も衛生思想も幼稚であったから、疱瘡や痲疹は人力の及び難・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・クロムウェルの事業とか、リビングストンの事業はたいへん利益がありますかわりに、またこれには害が一緒に伴うております。また本を書くことも同じようにそのなかに善いこともありまた悪いこともたくさんあります。われわれはそれを完全なる遺物または最大遺・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「深い知合いというでもないが、小児の時学校が一緒とかで、顔は前から知ってるんだって」「そうですか。私ゃまたお上さんがお近しいから、そんな縁引きで今度親方のとこへも来なすったんだと思いまして……いえね、金さんの方じゃ知んなさらねえよう・・・ 小栗風葉 「深川女房」
私がまだ六つか七つの時分でした。 或日、近所の天神さまにお祭があるので、私は乳母をせびって、一緒にそこへ連れて行ってもらいました。 天神様の境内は大層な人出でした。飴屋が出ています。つぼ焼屋が出ています。切傷の直ぐ・・・ 小山内薫 「梨の実」
出典:青空文庫