・・・それはいずれも見慣れない、素朴な男女の一群だった。彼等は皆頸のまわりに、緒にぬいた玉を飾りながら、愉快そうに笑い興じていた。内陣に群がった無数の鶏は、彼等の姿がはっきりすると、今までよりは一層高らかに、何羽も鬨をつくり合った。同時に内陣の壁・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・ 幻滅した芸術家 或一群の芸術家は幻滅の世界に住している。彼等は愛を信じない。良心なるものをも信じない。唯昔の苦行者のように無何有の砂漠を家としている。その点は成程気の毒かも知れない。しかし美しい蜃気楼は砂漠の天にのみ生・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・十八を頭に赤子の守子を合して九人の子供を引連れた一族もその内の一群であった。大人はもちろん大きい子供らはそれぞれ持物がある。五ツになるのと七ツになる幼きものどもが、わがままもいわず、泣きもせず、おぼつかない素足を運びつつ泣くような雨の中をと・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・て里の小娘は嵐の吹く松の下に集って脇明から入って来る風のさむいのもかまわず日のあんまり早く暮れてしまうのをおしんで居ると熊野を参詣した僧が山々の□(所を越えてようやくようよう麓のここまで下って来てこの一群の子供達のそばに来て息も絶え絶えの様・・・ 著:井原西鶴 訳:宮本百合子 「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」
・・・十 椿岳の畸行作さんの家内太夫入門・東京で初めてのピヤノ弾奏者・椿岳名誉の琵琶・山門生活とお堂守・浅草の畸人の一群・椿岳の着物・椿岳の住居・天狗部屋・女道楽・明治初年の廃頽的空気 負け嫌いの椿岳は若い時か・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・どこか屋根の上に隠れて止まっていた一群の鳩が、驚いて飛び立って、たださえ暗い中庭を、一刹那の間一層暗くした。 聾になったように平気で、女はそれから一時間程の間、やはり二本の指を引金に掛けて引きながら射撃の稽古をした。一度打つたびに臭い煙・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・そして、夜になると彼らの一群は、しばらく名残を惜しむように、低く湖の上を飛んでいたが、やがて、Kがんを先頭に北をさして、目的の地に到達すべく出発したのであります。それは、星影のきらきらと光る、寒い晩のことでありました。・・・ 小川未明 「がん」
・・・ この家はこの娘のためになんとなく幸福そうに見える。一群の鶏も、数匹の白兎も、ダリヤの根方で舌を出している赤犬に至るまで。 しかし向かいの百姓家はそれにひきかえなんとなしに陰気臭い。それは東京へ出て苦学していたその家の二男が最近骨に・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・月影はこんもりとこの一群を映している、人々は一語を発しないで耳を傾けていた。今しも一曲が終わったらしい、聴者の三四人は立ち去った。余の人々は次の曲を待っているけれど吹く男は尺八を膝に突き首を垂れたまま身動きもしないのである。かくしてまた四五・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・もはや電燈が点いて白昼のごとくこの一群の人を照らしている。人々は黙して正作のするところを見ている。器械に狂いの生じたのを正作が見分し、修繕しているのらしい。 桂の顔、様子! 彼は無人の地にいて、我を忘れ世界を忘れ、身も魂も、今そのなしつ・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
出典:青空文庫