・・・そうして、この手紙を御面倒ながら、御一読下さい。これは私が、私と私の妻との名誉を賭して、書いたものでございますから。 かような事を、くどく書きつづけるのは、繁忙な職務を御鞅掌になる閣下にとって、余りに御迷惑を顧みない仕方かも知れません。・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・なお巴に関して、詳細を知りたい人は、新村博士の巴に関する論文を一読するが好い。二 提宇子のいわく、DS は「すひりつあるすすたんしや」とて、無色無形の実体にて、間に髪を入れず、天地いつくにも充満して在ませども、別して威光を顕・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・この両様とも悉しくその姿を記さざれども、一読の際、われらが目には、東遊記に写したると同じ状に見えていと床し。 しかるに、観聞志と云える書には、――斎川以西有羊腸、維石厳々、嚼足、毀蹄、一高坂也、是以馬憂これをもってうまかいたいをうれう、・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・稿の成ると共に直ちにこれを東京に郵送して先生の校閲を願ったが、先生は一読して直ちに僕が当時の心状を看破せられた。返事は折返し届いて、お前の筆端には自殺を楽むような精神が仄見える。家計の困難を悲むようなら、なぜ富貴の家には生れ来ぬぞ……その時・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・そのときに友人が来ましてカーライルに遇ったところが、カーライルがその話をしたら「実に結構な書物だ、今晩一読を許してもらいたい」といった。そのときにカーライルは自分の書いたものはつまらないものだと思って人の批評を仰ぎたいと思ったから、貸してや・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・これを朋友子弟に頒つ。主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩艶絶。これを一読するに、温乎として春風のごとく、これを再読するに、凜乎として秋霜のごとし。ここにおいて、余初めて君また文壇の人たるを知・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・作品を読んだ事は無かったが、詩人の加納君が、或る会合の席上でかなりの情熱を以て君の作品をほめて、自分にも一読をすすめた事がありました。自分も、そんなら一度読んでみようと思いながら、今日までその機会が無く、そのままになっていました。先日、君の・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・『道化の華』早速一読甚だおもしろく存じ候。無論及第点をつけ申し候。『なにひとつ真実を言わぬ。けれども、しばらく聞いているうちには思わぬ拾いものをすることがある。彼等の気取った言葉のなかに、ときどきびっくりするほど素直なひびきの感ぜられること・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・自分の書いた文章が、全く読まれないか、あるいはざっと一読の光栄に浴して、そうして、「なんだいこれは」と顔をしかめられるのをハッキリ自覚しながら、それでも一字一字まじめに考え考えして文章を書かなければならぬというのは、つらい話である。むかしの・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・原稿は、そのままするすると編輯者の机上に送り込まれ、それを素早く一読した編輯者を、だいいちばんに失望させ、とにかく印刷所へ送られる。印刷所では、鷹のような眼をした熟練工が、なんの表情も無く、さっさと拙稿の活字を拾う。あの眼が、こわい。なんて・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫