・・・もしも強いてこれを一途に出でしめ、今年今月の政治の方向と今年今月の教育の組織とを併行せしめて、教育の即効を今年今月に見んとするときは、その教育は如何様にして何の書を読ましめ何の学芸を授くるも、純然たる政治教育となりて、社会物論の媒介たるべき・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・穂吉どのも、ただ一途に聴聞の志じゃげなで、これからさっそく講ずるといたそう。穂吉どの、さぞ痛かろう苦しかろう、お経の文とて仲々耳には入るまいなれど、そのいたみ悩みの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲を刻みつけるじゃぞ、いいかや、まこ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・まなまと恐ろしい人間性格の相剋が現実すること、そして、その相剋する力がその枠をとりのぞく作用としては在り得ないで、その枠内で揉み合って、枠内のしきたりによって悲劇の終末へまで運ばれてゆくのが、常に正直一途な家臣としての運命でなければならなか・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・だが、そのひとが、まさに火中に身を投じて、必死の活躍をしている時、何を考えていたろう。一途に救けようとしているものを救け出すことしか考えていなかったことは確かである。その目的にしたがい、日頃の訓練によって刻々の危険から身をかわしつつ、最大の・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・けがれたまねは しまいと思うしっかりと 何よりもまず自らに立派で あろうと思う この生きる態度の決意と愛と真実をこの世に信じる心とは女詩人としての竹内さんの一途の道であると思える。そして、この一途の道は永年に・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・これまで人が自分達の生長の程度が客観的にどの程度まで行っているか見る力を持っていなくて、而かも一途に恋愛から結婚へ急ぐ事から、所謂恋愛結婚が破綻をした例が多いため、かえって媒酌結婚がいいというような考えかたも生んだのだと思います。結婚出来る・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ 一かどの芸術家は、男女によらずだれしも或る強情さ、一途さ、意志のつよさ、人生への負けじ魂をもっている。それは人間的な素地として、其々の専門部門への特別な天稟とともに備えている。其々の時代の制約と闘うということも共通である。苦心するのも・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・母としての櫛田さんは、ぐるりの人々の親切から出る忠告をやわらかくうけながら、娘さんの一途な心をいじらしく思って、母と娘と心は一つにして婚約の人の帰るのを待っている。若い人々が戦争によって不幸になっている。その日々の気のはり、笑いの中に涙を母・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・一生懸命に暮せばこそ身につきもするそういう女のがんばりについてその一途さにねうちがあるからこそ、一方のひずみとして現れるがんばりは、もっとひろやかで聰くより柔和なものに高められなければならないのだと、誰が、良人のいない、暮しのきつい後家たち・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・野原の急な風……それはなかなか想像のほかで、見る間に草の茎や木の小枝が砂と一途にさながら鳥の飛ぶように幾万となく飛び立ッた。そこで話もたちまち途切れた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音に呑まれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫