・・・ その麓まで見通しの、小橋の彼方は、一面の蘆で、出揃って早や乱れかかった穂が、霧のように群立って、藁屋を包み森を蔽うて、何物にも目を遮らせず、山々の茅薄と一連に靡いて、風はないが、さやさやと何処かで秋の暮を囁き合う。 その蘆の根を、・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・……亡きあとでも、その常用だった粗末な手ぶんこの中に、なおざりにちょっと半紙に包んで、といけぞんざいに書いたものを開けると、水晶の浄土珠数一聯、とって十九のまだ嫁入前の娘に、と傍で思ったのは大違い、粒の揃った百幾顆の、皆真珠であった。 ・・・ 泉鏡花 「怨霊借用」
・・・数珠一聯。千葉を遁げる時からたしなんだ、いざという時の二品を添えて、何ですか、三題話のようですが、凄いでしょう。……事実なんです。貞操の徴と、女の生命とを預けるんだ。――(何とかじゃ築地へ帰――何の事だかわかりませんがね、そういって番頭を威・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・死ぬるばかりの猛省と自嘲と恐怖の中で、死にもせず私は、身勝手な、遺書と称する一聯の作品に凝っていた。これが出来たならば。そいつは所詮、青くさい気取った感傷に過ぎなかったのかも知れない。けれども私は、その感傷に、命を懸けていた。私は書き上げた・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・死ぬるばかりの猛省と自嘲と恐怖の中で、死にもせず私は、身勝手な、遺書と称する一聯の作品に凝っていた。これが出来たならば。そいつは所詮、青くさい気取った感傷に過ぎなかったのかも知れない。けれども私は、その感傷に、命を懸けていた。私は書き上げた・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 早打ちの使者の道中を見せる一連の編集でも連句的手法を借りて来ればどんなにでも暗示的なおもしろみを出すことができたであろうと想像される。そういうことにかけてはおそらく日本人がいちばん長じているはずだと思われるのに、その長所を利用しないの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・の音、脈搏を擬する弦楽器のピッチカットもそんなにわざとらしくない。 モーリスの出現によって陰気なシャトーの空気の中に急に一道の明るい光のさし込むのを象徴するように、「ミミーの歌」の一連の連続が插入されてインターリュードの形をなしている。・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ それについて私の平生の疑問は、これらの連作をされる方々が、どういう方法で一聯の連作を纏めておられるかということであります。一見したところでは、人によってこれはずいぶん色々であるように思われます。しかし私の素人考えではこの方法論はかなり・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・しかるに現在では細長い日本島弧の上に、言わばただ一連の念珠のように観測所の列が分布しているだけである。たとえて言わば奥州街道から来るか東海道から来るか信越線から来るかもしれない敵の襲来に備えるために、ただ中央線の沿線だけに哨兵を置いてあるよ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ このようにして一連句は日本人の過去、現在、未来の生きた生活の忠実なる活動写真であり、また最も優秀なるモンタージュ映画となるのである。これについてはさらに章を改めて詳しく論じてみたいと思う。 ともかくも、俳諧連句が過去においてのみな・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫