・・・ 雲は低く灰汁を漲らして、蒼穹の奥、黒く流るる処、げに直顕せる飛行機の、一万里の荒海、八千里の曠野の五月闇を、一閃し、掠め去って、飛ぶに似て、似ぬものよ。ひょう、ひょう。 かあ、かあ。 北をさすを、北から吹・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・主人は訳はわからぬが、其一閃の光に射られて、おのずと吾が眼を閉じて了った。「この女めも、弁口、取りなし、下の者には十二分の出来者。しかも生命を捨ててもと云居った、うその無い、あの料簡分別、アア、立派な、好い侍、かわゆい、忠義の者ではある・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・俳優としてよりむしろライナーの富、華麗、社交性、女としての日常性があすこで一閃するが如き強烈な印象を与えるのである。映画全体として、これは一つの大きい破綻のモメントである。監督フランクリンがそれに心付いていまい。そのことにもまたこの監督の身・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・うっとり見ていると肉体がいつの間にか消え失せ、自分まで燃え耀きの一閃きとなったように感じる。甘美な忘我が生じる。 やがて我に還ると、私は、執拗にとう見、こう見、素晴らしい午後の風景を眺めなおしながら、一体どんな言葉でこの端厳さ、雄大な炎・・・ 宮本百合子 「この夏」
出典:青空文庫