・・・ 新聞広告代など財布を叩き破っても出るわけはなく、看板をあげるにもチラシを印刷するにもまったく金の出どころはない。万策つきて考え出したのが手刷りだ。 辛うじて木版と半紙を算段して、五十枚か百枚ずつ竹の皮でこすっては、チラシを手刷りし・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・私は万策尽きた気持で、襖をへだてた小坂家の控室に顔を出した。「ちょっと手違いがありまして、大隅君のモオニングが間に合わなくなりまして。」私は、少し嘘を言った。「はあ、」小坂吉之助氏は平気である。「よろしゅうございます。こちらで、なん・・・ 太宰治 「佳日」
・・・私は何も話しに来たのではないんですからと再三たのむのだけれども、きっと日本の女を、皆の見えるところへ出したいと思ったのだろう。私は万策つきた形で、小高い台の上に並んでかけた。その時話していた人のその日の記念日のわけを説明する講演が終ったら、・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
出典:青空文庫