・・・三年前の文芸復興の声につれて、日本におこったロマン派、現在保田与重郎氏等によって提唱されている日本ロマン派が、素朴に過去へ飛躍して、ギリシア文化や万葉の文化、王朝文化を云々することが現実の文化を逆に引戻す作用をしていることが意味されているの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・をしている女のひとの感情でさえ、たとえば近頃の岡本かの子氏の時局和歌などをよむと、新聞でつかうとおりの粗大な形容詞の内容のまま、それを三十一文字にかいていられる。北原白秋氏は、観念上の「空爆」を万葉調の長歌にかいていられる。これらすべては、・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・崇拝に導いて、「桂冠詩人としての日本武尊だの、万葉の歌人たち、或いは恋愛の女詩人和泉式部の再発見という風に進んだ。日本の文学は、そのように古典を学んだことで、却って、現代文学としての砦の所在を消し、より早く軍御用とさせるに役立った。 婦・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
少し、読みためたのを、人に見てもらう。 母は、万葉調のが上手で、十一の時から詠んで居たから、流石に巧い。 私のとは、まるで気持が違う。 自分でよんで、自分でうっとりする様な歌は、どうしても、まだ未熟な私には、出・・・ 宮本百合子 「短歌」
・・・例えば中河与一氏の万葉精神に対する主観的傾倒と佐佐木信綱氏が万葉学者として抱いていられる万葉精神に対する客観的見解とは必ずしも全部一致しがたいと見るのが当然であろう。また、保田与重郎君の幻想と小宮豊隆氏の高度な知的ディレッタンティズムが肩と・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 万葉の歌の多くを見ても、そこに何と瑞々しく恋愛の思いがうたわれていることだろう。花になぞらえ、雲にたとえて、男女相愛の思いは、直接な感覚に迫ったあこがれとして表現されている。しかし、稚い社会にふさわしく稚かったそれらの古代日本人の心情・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・号令をかけて馬にのる人々も、文学的な感情をゆたかにして古事記や万葉集を読むとしたら、結構なことと云わざるを得ないのであるけれども、文化の全面を社会の現実の有様と照らしあわせて眺めると、理解はしかく皮相、単純なところに止まっておられないと思え・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ 文学または思想における日本的なものの追求が近頃これらの作家達によって熱心にされている。万葉、王朝時代の精神が今日の生活に求められている。それらのことについての感想は後にふれるとして、世間普通のものの目から見ると、そのような一部の作家た・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・しかも、これらの芸術的要素は、万葉時代にはこのような形では日本人の生活感情のうちに現われていなかったものである。まして、いわんや、フランスがえりの梶なる男が、青畳の上にころがって官能的にこの世の力を悦びながら「南無、天知、物神、健かにましま・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫