・・・だった地蔵様が、負われて行こう……と朧夜にニコリと笑って申されたを、通りがかった当藩三百石、究竟の勇士が、そのまま中仙道北陸道を負い通いて帰国した、と言伝えて、その負さりたもうた腹部の中窪みな、御丈、丈余の地蔵尊を、古邸の門内に安置して、花・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・毎年、富士の山仕舞いの日に木花咲耶姫へお礼のために、家々の門口に、丈余の高さに薪を積み上げ、それに火を点じて、おのおの負けず劣らず火焔の猛烈を競うのだそうであるが、私は、未だ一度も見ていない。ことしは見れると思って来たのだが、この豪雨のため・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・池幅の少しく逼りたるに、臥す牛を欺く程の岩が向側から半ば岸に沿うて蹲踞れば、ウィリアムと岩との間は僅か一丈余ならんと思われる。その岩の上に一人の女が、眩ゆしと見ゆるまでに紅なる衣を着て、知らぬ世の楽器を弾くともなしに弾いている。碧り積む水が・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫