・・・ だが、この両管領との合戦記は、馬琴が失明後の口授作にもせよ、『水滸伝』や『三国志』や『戦国策』を襲踏した痕が余りに歴々として『八犬伝』中最も拙陋を極めている。一体馬琴は史筆椽大を以て称されているが、やはり大まかな荒っぽい軍記物よりは情・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
緒言 子供の時分に、学校の読本以外に最初に家庭で授けられ、読むことを許されたものは、いわゆる「軍記」ものであった。すなわち、「真田三代記」、「漢楚軍談」、「三国志」といったような人間味の希薄なものを読みふ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・「狐の裁判」の翻訳書を貸してくれた人である。「漢楚軍談」「三国志」「真田三代記」の愛読者であったところの明治二十年ごろの田舎の子供にこのライネケフックスのおとぎ話はけだし天啓の稲妻であった。可能の世界の限界が急に膨張して爆発してしまったよう・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・いったい自分はそのころから陰気な性で、こんな騒ぎがおもしろくないから、いつものように宵のうちいいかげんごちそうを食ってしまうと奥の蔵の間へ行って戸棚から八犬伝、三国志などを引っぱり出し、おなじみの信乃や道節、孔明や関羽に親しむ。この室は女の・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・「八犬伝」「三国志」「漢楚軍談」などは非常に興味を持って、たいていは読み通したのである。これがため自分ながら読書力は大いに進んでいたように思った。めちゃくちゃに読むということは、無論よいことではなかろうが、とにかく読書力は非常に養える。弊害・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時よんだものは生涯忘れずにいるものらしい。中年以後、わたくしは、機会があったら昔に読んだものを・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・穂の短かい柄の先に毛の下がった三国志にでも出そうな槍をもつ。そのビーフ・イーターの一人が余の後ろに止まった。彼はあまり背の高くない、肥り肉の白髯の多いビーフ・イーターであった。「あなたは日本人ではありませんか」と微笑しながら尋ねる。余は現今・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・「どういう文学か」ということを追求し、ぎんみし、学んで自分からも作ってゆく民主的文学の自主的発展の能力がつよく、みずみずしくつちかわれてゆかなければならないのである。 吉川英治は、なぜ「太閤記」「三国志」「親鸞」「宮本武蔵」というような・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫