-
・・・祖母は、 「鎌足らず公だから、三河屋の呉れた餅を三ケ一ほどお汁の中へ入れておやり」と云う。甚五郎は炉で煙草を吸って居る。 鯛の眼の通りな水色の眼玉は、たるんだ瞼をながれ出しそうになって居て、「たて」や「横」の「しわ」が深い谷間を作っ・・・
宮本百合子
「農村」
-
・・・「香以の友阿心庵是仏が谷中三河屋の主人なることは伝に見えていた。是仏の俗称は斎藤権右衛門であった」と云うのである。わたくしはこれを聞いて始て是仏の狩谷矩之の生父なることを知った。斎藤権右衛門には三子があった。長を権之助という。是が四世清元延・・・
森鴎外
「細木香以」