・・・式有色映画の示す程度までは進歩したが、その色彩はまだきわめて単調でなまなましくて、かろうじて安物の三色版の水準にしか達していない。それがためにかえって画面の明暗の調子を攪乱し減殺し、そうして過度の刺激によって目を疲らせるばかりであるから、現・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 蓄音機でいい音楽を聞くのと、三色版で名画を見るのとはちょっと考えると似ているようで実は少し違ったところがあると思う。私の考えでは、三色版が色彩に対しても不忠実であるのみならず、画面の微妙な光沢や組織に対し全然再現能力のないのに反して、・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・自分は不幸にして未来派の画やカンジンスキーのシンクロミーなどというものに対して理解を持ち兼ねるものであるが、ただ三色版などで見るこれらの絵について自分が多少でも面白味を感ずる色彩の諧調は津田君の図案帖に遺憾なく現われている。時には甚だしく単・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・そうしてその三色版じみた模倣に呆れたのである。しかし近よって子細に検すると、麦のくきや穂や葉などの、乾いてポキポキとした感じが、日本絵の具でなければ現わせない一種の確かさをもって描かれていた。黄いろい乾いた光沢なども、カンバスの上に油をもっ・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫