・・・今の月が上弦だろうが下弦だろうが、今夜がクリスマスだろうが、新年だろうが、外の人間が為合せだろうが、不為合せだろうが構わないという風でいるのね。人を可哀いとも思わなければ、憎いとも思わないでいるのね。鼠の穴の前に張番をしている鸛のように動か・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 夜ひとりボートデッキへ上がって見たら上弦の月が赤く天心にかかって砂漠のながめは夢のようであった。船橋の探照燈は希薄な沈黙した靄の中に一道の銀のような光を投げて、船はきわめて静かに進んでいた。つい数日前までは低く見えていた北極星が、いつ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫