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・・・ この、筆者の友、境賛吉は、実は蔦かずら木曾の桟橋、寝覚の床などを見物のつもりで、上松までの切符を持っていた。霜月の半ばであった。「……しかも、その(蕎麦二膳には不思議な縁がありましたよ……」 と、境が話した。 昨夜は松本で・・・
泉鏡花
「眉かくしの霊」
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・・・その幹が斜めに山門の甍を隠して、遠い青空まで伸びている。松の緑と朱塗の門が互いに照り合ってみごとに見える。その上松の位地が好い。門の左の端を眼障にならないように、斜に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出しているのが何となく古風であ・・・
夏目漱石
「夢十夜」