・・・同飛行機は、火災地の上空をいきかえりしたので、機体がすすでまっ黒になったと言われています。 摂政宮殿下には災害について非常に御心痛あそばされ、当日ただちに内田臨時首相をめし、政府が全力をつくして罹災者の救護につとめるようにおおせつけにな・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・私は祖母に抱かれ、香料のさわやかな匂いに酔いながら、上空の烏の喧嘩を眺めていた。祖母は、あなや、と叫んで私を畳のうえに投げ飛ばした。ころげ落ちながら私は祖母の顔を見つめていた。祖母は下顎をはげしくふるわせ、二度も三度も真白い歯を打ち鳴らした・・・ 太宰治 「玩具」
・・・ その言葉が、あの女のひとの耳にまでとどかざる事、あたかも、一勇士を葬らわんとて飛行機に乗り、その勇士の眠れる戦場の上空より一束の花を投じても、決してその勇士の骨の埋められたる個所には落下せず、あらぬかなたの森に住む鷲の巣にばさと落ちて・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・そうして普通の上空気温低下率から計算しても約摂氏五度ほどの気温降下を経験する。それで乗客の感覚の上では、恰度かなりな不連続線の通過に遭遇したと同等な効果になるわけである。しかし、乗客はみな、そんな面倒なことなどは考えないで「ああ涼しい」とい・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ 高い上空を吹いている烈風が峰に当って渦流をつくる。その渦が時々風陰のこの谷底に舞い降りて来るので、その度ごとにこうした突風が屋を揺るがすのではないかと思われた。 夜が明けても雨は小止みもなく降り続いた。松本までの車を雇って山を下り・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・いちばんおもしろいのは、三艘の大飛行船が船首を並べて断雲の間を飛行している、その上空に追い迫った一隊の爆撃機が急速なダイヴィングで小石のごとく落下して来て、飛行船の横腹と横腹との間の狭い空間を電光のごとくかすめては滝壺のつばめのごとく舞い上・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・一番面白いのは、三艘の大飛行船が船首を並べて断雲の間を飛行している、その上空に追い迫った一隊の爆撃機が急速なダイヴィングで礫のごとく落下して来て、飛行船の横腹と横腹との間の狭い空間を電光のごとくかすめては滝壷の燕のごとく舞上がる光景である。・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・峰の茶屋のある峠の上空に近く、巨口を開いた雨竜のような形をしたひと流れのちぎれ雲が、のた打ちながらいつまでも同じ所を離れない。ここで気流が戦って渦を巻いているのであろう。 日によってはまた、浅間の頂からちょうど牡丹の花弁のような雲の花冠・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・それは、日本航空輸送会社の旅客飛行機白鳩号というのが九州の上空で悪天候のために針路を失して山中に迷い込み、どうしたわけか、機体が空中で分解してばらばらになって林中に墜落した事件について、その事故を徹底的に調査する委員会ができて、おおぜいの学・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・野辺地の浜に近い灌木の茂った斜面の上空に鳶が群れ飛んでいた。近年東京ではさっぱり鳶というものを見たことがなかったので異常に珍しくなつかしくも思われた。のみならず鳶のこのように群れているということ自身も珍しい。おそらく下には何かよほど豊富な獲・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
出典:青空文庫