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・・・が、その相手は何かと思えば、浪花節語りの下っ端なんだそうだ。君たちもこんな話を聞いたら、小えんの愚を哂わずにはいられないだろう。僕も実際その時には、苦笑さえ出来ないくらいだった。「君たちは勿論知らないが、小えんは若槻に三年この方、随分尽・・・
芥川竜之介
「一夕話」
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・・・劇場のオーケストラの下っ端ヴァイオリンを弾いているその先生は、パン店の帳場から金を盗み出してポケットへ入れようとしているところを、ゴーリキイに発見された。彼は唇をふるわし、色のない目から油のように大きい涙をこぼしながら、ゴーリキイに訴えた。・・・
宮本百合子
「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」