・・・ 帰り途、二つ井戸下大和橋東詰で三色ういろと、その向いの蒲鉾屋で、晩のお菜の三杯酢にする半助とはんぺんを買って、下寺町のわが家に戻ると、早速亭主の下帯へこっそりいもりの一匹を縫いこんで置き、自分もまた他の一匹を身に帯びた。 ちかごろ・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・「女は腰のところを下帯で紮げて着るんですから」と言って、藤さんはそばから羽織の襟を直してくれる。「なぜそうするんでしょう」「みんなそうするんですわ。おや、羽織に紐がございませんわね」「いいえけっこう」というと、初やが、「・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・夏の暑い盛りだと下帯一つの丸裸で晩酌の膳の前にあぐらをかいて、渋団扇で蚊を追いながら実にうまそうに杯をなめては子供等を相手にして色々の話をするのが楽しみであったらしい。松魚の刺身のつまに生のにんにくをかりかり齧じっているのを見て驚歎した自分・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ 何の苦労と云う事も知らずに育った仙二は折々は都会のにぎやかな生活をするのでその土地の方言は必してつかわなかった。 下帯一枚ではだしで道を歩く女達が太い声で、ごく聞きにくい土着の言葉を遠慮もなくどなり散らすのを聞くと知らず知らず仙二・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
出典:青空文庫