・・・うまれからの廓ものといえども、見識があって、役者の下端だの、幇間の真似はしない。書画をたしなみ骨董を捻り、俳諧を友として、内の控えの、千束の寮にかくれ住んだ。……小遣万端いずれも本家持の処、小判小粒で仕送るほどの身上でない。……両親がまだ達・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・お前の竿では其処に坐っていても別に甲斐があるものでもないし、かえって二間ばかり左へ寄って、それ其処に小さい渦が出来ているあの渦の下端を釣った方が得がありそうに思うよ。どうだネ、兄さん、わたしはお前を欺すのでも強いるのでもないのだよ。たってお・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・多くの場合に数条の並行した、引き延ばされたS字形となって現われているこの線は、鬢の下端の線などと目立った対偶をしている。そして頭部の線の集団全体を載せる台のような役目をしていると同時に、全体の支柱となるからだの鉛直線に無理なく流れ込んでいる・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・上衣の胴着の下端の環が小舟の真中に腰を入れる穴の円枠にぴったり嵌まって海水が舟中へ這入らないようにしてあるのは巧妙である。命懸けの智恵の産物である。 これなども見れば見るだけ利口になる映画であろう。 二 ロス対マクラー・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・そうしてその二枚が必ずしも茎の上端とか下端でなく、中途の高さにあるのは全く不可思議である。そうしていっそうおもしろいのはこの草の花である。地上からまっすぐに三尺ぐらいの高さに延び立ったただ一本の茎の回りに、柳のような葉が輪生し、その頂上に、・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・とあるのは、現在でも各地方の沢の下端によくあるような貯水池を連想させる。熔岩流がそれを目がけて沢に沿うておりて来るのは、あたかも大蛇が酒甕をねらって来るようにも見られるであろう。 八十神が大穴牟遅の神を欺いて、赤猪だと言ってまっかに焼け・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ナウエンの無線電信塔の鉄骨構造の下端がガラスのボール・ソケット・ジョイントになっているのを見たときにも胆を冷やしたことであった。しかし日本では濃尾震災の刺戟によって設立された震災予防調査会における諸学者の熱心な研究によって、日本に相当した耐・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫