・・・名義人は下請に文句を言った。 下請は世話役に文句を云った。世話役が坑夫に、「もっと調子よくやれよ。八釜しくて仕様がないや」「八釜しい奴あ、耳を塞いどけよ」「そうじゃねえんだ。会社がうるせえんだよ」「だったらな。会社の奴に・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ 工場の昨今では、早出、残業、夜業は普通であるし、設備の不十分な下請け工場の簇出と不熟練工の圧倒的多数という条件は、工場内での災害をこれまでの倍にした。警視庁がこれに対して、十二時間を限度とする警告を発したのは遠いことではなかった。母性・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・外聞がわるそうな公売で、東芝の生産した不合格品のストックや、会社として負担になっていたけれども潰してしまえなかった下請け工場の整理が出来て――労働者をクビにすることが出来て――或る意味では悪くなかったというのが現実である。大資本は、税の滞納・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・今は役所の下請けをした青年団ももとのままではいられなくなって来た。青年の気持をほんとうに反映して向上して行こうとする心の貯水池によりかかろうとしている。青年団のどこでもがこの頃はさかんに演芸会をやっている。失われた笑いと大声で遠慮なく喋るこ・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 東京の街をすこし歩けば誰にでも判るように、五百人以上も働いている工場などでない小さい下請工場の数は実に夥しい。調査の手のゆき届かない、職工さんというより徒弟じみた条件で働いている少年少女工の数はどれ程だろう。そして、その稚い成長盛りの・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
・・・戦争が始まって、それらの小工場はみんな軍需生産の下請工場となった。急に生産を膨脹させると共に、労働の基本としたのはやはり賃銀の安い青少年労働者、そして婦人達であった。この青少年と女性の勤労を戦時的に利用する計画というものは、既に十数年前から・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・亀蔵は神田久右衛門町代地の仲間口入宿富士屋治三郎が入れた男で、二十歳になる。下請宿は若狭屋亀吉である。表小使亀蔵が部屋を改めて見れば、山本の外四人の金部屋役人に、それぞれ宛てた封書があって、中は皆白紙である。 察するに亀蔵は、早晩泊番の・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫