・・・やり切れなくなったら、旅行でもしてみたら、どうですか。不一。 二十五日井原退蔵 木戸一郎様 謹啓。 御手紙を、繰り返し拝読いたしました。すぐにはお礼状も書けず、この三日間、溜息ばかりついていました。私はあなた・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ 不一。黒田重治。太宰治様。」 月日。「お問い合せの玉稿、五、六日まえ、すでに拝受いたしました。きょうまで、お礼逡巡、欠礼の段、おいかりなさいませぬようお願い申します。玉稿をめぐり、小さい騒ぎが、ございました。太宰先生、私は貴方・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私は、ふざけていません。不一。―― その国民学校の先生が、私の家へ呶鳴り込んで来てもいいと覚悟して書いたのであるが、四五日経ってから、次のような、やや長い手紙が来た。 ――十一月二十八日。昨夜の疲労で今朝は七時の時報を聞いても仲々起・・・ 太宰治 「新郎」
・・・なおまた、私の人格が完成してから逢って下さるのだそうですが、いったい人間は、自分で自分を完成できるものでしょうか。不一。」 やっぱり小説家というものは、うまい事を言うものだと思いました。一本やられたと、くやしく思いました。私は一日ぼんや・・・ 太宰治 「恥」
・・・今宵、風寒く、身の置きどころなし。不一。 さらに一通は、 かなしいことには、あれでさえ、なおかつ、狂言にすぎなかった。われとわが額を壁に打ちつけ、この生命絶たむとはかった。あわれ、これもまた、「文章」にすぎない。君、僕は覚悟して・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫