・・・勿論、これらの作と雖も或る特殊階級の人々には必要なものかも知れぬが、然し此等の作品が民衆的であるべき目的を度外視して、或る特殊な有産階級とか知識階級の為めにのみ作られるということは、頗る不合理だと思うのである。 トルストイの芸術はどんな・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・この考えは極めて合理的な考えであったが、同時にこれ以上不合理な考えはなかった。 私の欠席日数はまたたく間に超過して、私は再び現級に止まることになった。私の髪も長かったが、高等学校生活も長かったわけである。私は後者の長さに飽き果てて、遂に・・・ 織田作之助 「髪」
・・・動物につながる連想の活動を刺激することによって「憧憬のかすみの中に浮揺する風景や、痛ましく取り止めのつかない、いろいろのエロチックな幻影や、片影しか認められないさまざまの形態の珍しい万華鏡の戯れやが、不合理な必然性に従って各自の中から生長す・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・といったような、考えようではむしろ甚だ不合理な呼び声にしばしば脅かされなければならないことがあるのもまた事実であり、現在の現象である。 「環境」という方面から見た「研究の自由」に関する「事実」は、先ず大要以上のごときもののようである。・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・その風呂なるものが実にはなはだ科学的には不合理不経済に出来ているものである。その不合理不経済なところにポエトリーはあるが現代には少し不向きである。 今日は暑くて九十度を越したなどとというあの寒暖計、体温が三十九度もあるなどというあの寒暖・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・の刃物を出しおくれ」「仕もせぬ事を隠しそこなひ」のような諸篇にも人間の機微な心理の描写が出ている。「白浪のうつ脈取坊」には犯罪被疑者がその性情によって色々とその感情表示に差違のあることを述べ「拷問」の不合理を諷諌し、実験心理的な脈搏の検査を・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ きょうは日曜で汽車は不合理な不正当な満員であった。ほとんど身動きもできないほどで、出る時に出られるかどうかと思うくらいであった。網棚に絵の具箱をのせる空所もなかったのでベンチにのせかけて持っているうちに、誤って取り落とすと隣に立ってい・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・火事や暴風が多いというようなこともなんら科学的の根拠のないことであると思われるが、しかしこれらは干支の算年法に付帯して生じた迷信であって、そういう第二義的な弊が伴なうからと言って干支の使用が第一義的に不合理だという証拠にはならない。昔から長・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・自分はQに云われる前から自分の頭の奥底にどこかこのような不合理な心理状態が潜んでいるのではないかと疑ってみた事があっただけにこのQの暗示はかなりのききめがあった。 Qが帰ってから昼飯を食った。それから子供部屋へ行ってオルガンをひいた。・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・しかし誰もその不合理を咎める人はない。帝展も一つの有機体であって生きているものである以上は去年と同じであるはずはない。「生きるとは変化する事である」という言葉が本当なら、今年は今年の帝展というものがなければならない。しかしこの有機体の細胞で・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫