・・・時としては朝早くから私の寝込を襲うて午飯も晩飯も下宿屋の不味いものを喰って夜る十一時十二時近くまで話し込んだ事もあった。 その時分即ち本所時代の緑雨はなかなか紳士であった。貧乏咄をして小遣銭にも困るような泣言を能くいっていても、いつでも・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・私は音楽を聞く耳も何も持たない素人ではあるがその人のうたいぶりはすこぶる不味いように感じました。あとでその人に会って感じた通り不味いと云いました。ところがその音楽家はあの演奏台に立った時、自分の足がブルブル顫えるのに気が着いたかと私に聞きま・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ 私の頭の中に考えられた味は、ほんとうに不味い極く極く不愉快なものであった。 何でもない様でありながら、こんな下司な取りあわせをするかと思うとやたらに、かんしゃくが起った。 貧亡(人の多い、東北らしい事だ! こんな事も思った・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫