・・・よしまたそれは不問に附しても、握り飯と柿と交換したと云い、熟柿とは特に断っていない。最後に青柿を投げつけられたと云うのも、猿に悪意があったかどうか、その辺の証拠は不十分である。だから蟹の弁護に立った、雄弁の名の高い某弁護士も、裁判官の同情を・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・そうかと云って社会の輿論も、お島婆さんの悪事などは、勿論哂うべき迷信として、不問に附してしまうでしょう。そう思うと新蔵は、今更のように腕を組んで、茫然とするよりほかはありませんでした。そう云う苦しい沈黙が、しばらくの間続いた後で、お敏は涙ぐ・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・この言をしてもし平生にあらしめば必ず一条の紛紜を惹き起こすに相違なきも、病者に対して看護の地位に立てる者はなんらのこともこれを不問に帰せざるべからず。しかもわが口よりして、あからさまに秘密ありて人に聞かしむることを得ずと、断乎として謂い出だ・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・人間が、人間を奴隷とし、自欲のためには、他の苦艱をも意としない、そのことが人道にもとるにもかゝわらず。不問にされることも知っている。そして、この社会は、民衆が喜んだり、楽しんだりすることよりは、一層、苦しんだり、悲しんだりしているところであ・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ その短篇集の著者が、万世一系かどうか、それは彼の言論の自由のしからしむるところであろうから、敢えて不問に附するとしても、それに較べて私が乞食だという彼の断案には承知できないものがあった。としの若いやつと、あまり馴れ親しむと、えてしてこ・・・ 太宰治 「母」
・・・それが事実は特に人造石とゴムとの組み合わせによって特別な現象が起こるのであるから、これは必ずしも既知の単純なリュブリケーションの問題として不問に付することはできないように見える。これも一つのまじめな研究題目とすればなりうるであろうし、これを・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・我輩は常に世の道徳論者の言を聞き、論者が特にこの大切なる一点をば軽々看過してあたかも不問に附する者多きを見て窃かに怪しむのみか、その無識を冷笑するほどの次第なれば、大いに婦人の地位を推してこれを高処に進め、以て男子に拮抗せしめんとするの考案・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 今日の新聞では西尾末広の偽証罪が不問に附せられるかもしれないことについて、弁護士である人からの投書があった。有名なえらい人の偽証は無罪とされ、一般の人の偽証は犯罪とされているその点への疑惑が語られていた。裁判が精神的・物質的圧力から必・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
出典:青空文庫