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・・・太空は一片の雲も宿めないが黒味わたッて、廿四日の月は未だ上らず、霊あるが如き星のきらめきは、仰げば身も冽るほどである。不夜城を誇顔の電気燈は、軒より下の物の影を往来へ投げておれど、霜枯三月の淋しさは免れず、大門から水道尻まで、茶屋の・・・
永井荷風
「里の今昔」
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一 太空は一片の雲も宿めないが黒味渡ッて、二十四日の月はまだ上らず、霊あるがごとき星のきらめきは、仰げば身も冽るほどである。不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月の淋しさは免れず、大門から水道尻まで、茶屋の・・・
広津柳浪
「今戸心中」