・・・人間性そのものを変えるとすれば、完全なるユウトピアと思ったものも忽ち不完全に感ぜられてしまう。 危険思想 危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。 悪 芸術的気質を持った青年の「人間の悪」を発・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・また不完全ながらも心の調子が整うていればまだしもですが、さらにいびつになってできているのですから、様子がよほど変です、泣くも笑うも喜ぶも悲しむも、みな普通の人から見ると調子が狂っているのだからなお哀れです。 おしげはともかく、六蔵のほう・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・枚数が長くなることが気になって非常に不完全にしか書けなかった。 こゝには、インタナショナルの精神と、帝国主義戦争××が叫ばれている。 以上に挙げた、「クラルテ」と「夜」と、「義人ジミー」の三つの作品に於ては、そこに、ブルジョアジーの・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・が、この不完全な設備と不満足な知識とを以て川に臨んでいる少年の振舞が遊びでなくてそもそも何であろう。と驚くと同時に、遊びではないといっても遊びにもなっておらぬような事をしていながら、遊びではないように高飛車に出た少年のその無智無思慮を自省せ・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・デキショナアリヨムが不完全だったのである。藤兵衛は幾度となく首を振って考えた。言葉より動作が役に立った。シロオテは両手で水を掬って呑む真似を、烈しく繰り返した。藤兵衛は持ち合せの器に水を汲んで、草原の上にさし置き、いそいで後ずさりした。シロ・・・ 太宰治 「地球図」
・・・然しながら数日の後に其の接眼の縫目が化膿した為めに――恐らく手術の時に消毒が不完全だったのだろうと云う説が多数を占めている――彼女は再び盲目になって了ったそうである。当時親しく彼女を知っていた者が後に人に語って次のような事を云った。 ―・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・入江の家を語るのに、その祖父、祖母を除外しては、やはり、どうしても不完全のようである。私は、いまはそのお二人に就いても語って置きたいのである。そのまえに一つお断りしなければならない事がある。それは、私の之からの叙述の全部は、現在ことしの、入・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・不幸にして現在の録音機と発声マイクロフォンとはその機巧のいまだ不完全なために、あらゆる雑音の忠実な再現に成功していない。それで、盲者が、話し声の反響で室の広さを判断しうるような微妙な音色の差別を再現することはまだできないのであるが、それにも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・科学の表層だけを不完全なる知識として知っているだけで、自身になんら科学者としての体験のないような職業的通俗科学者の書いたものなどには、かえって科学の本質をゆがめて表現しているものも決して少なくない。また一方では、相当な科学者の書いたものでも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・しかしよく聞いてみると、だいたいの音の抑揚と律動が似ているだけで、母音も不完全であるし、子音はもとより到底ものになっていない。これは鳥と人間とで発声器の構造や大きさの違うことから考えて当然の事と思われる。問題はただ、それほど違ったものが、ど・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
出典:青空文庫