・・・食慾不振のおかげで、御馳走がまずく喰われるという幸運を持合せたのであろう。何が仕合せになるかもしれないのである。 四 半分風邪を引いていると風邪を引かぬ話 流感が流行るという噂である。竹の花が咲くと流感が流行るとい・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・無拠教程を鵜呑にする結果は知識に対する消化不良と食慾不振である。 教えるためには教えないことが肝心である。もう一杯というところで膳を取り上げ、もう一と幕と思うところで打出しにするという「節制」は教育においてもむしろ甚だ緊要なことではない・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・いわゆる文壇の不振とは、文壇に提供せられたる作物の不振ではない。作物を買ってやる財嚢の不振である。文士からいえば米櫃の不振である。新設されべき文芸院が果してこの不振の救済を急務として適当の仕事を遣り出すならば、よし永久の必要はなしとした所で・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・そして、雑誌を廃刊し、また経営不振におちいった出版社は、ほとんど戦後の新興出版社であり、「老舗はのこっている」。 出版不況は、戦後の浮草的出版業を淘汰したと同時に、同人雑誌の活溌化をみちびき出している。「先輩たちが同人雑誌を守って十年十・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・評論の不振に活の入れられなければならない必要も痛感されつつ、今年が迎えられた。窪川鶴次郎の『現代文学論』は昨年の冬出版され、数年来の文学の動向を、個々の現象に即しながらそれを原理に近づいて論考した所産として、少なからぬ興味を有するものであっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・医者は、段々祖母の食慾不振を不安がり始めた。生活力が洩れる水のように、絶えず目立たず、然し恐ろしい粘り強さで減退し始めた。一昨年の大震災当時祖母は過度な苦労をした。実の娘と孫とを失った。以来、衰えが目についた。病気そのものはもう癒ったのに、・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ これは北九州の或る坑山で実際にあった話であるが、或る坑山が所謂事業不振で閉鎖されることになった。会社の方では儲がうすくなったから、これ以上損をすまいと勝手に閉めるのだが、その日から女房子供を抱えて路頭に迷わなければならない数百人の労働・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
婦人作家が振わないと云うことがよく言われますね。之は女の特性によるものか、つまり女に天性その能力がないせいなのか、それとも他の条件によるものなのか。 婦人作家「不振」の声は今更のことではありません。昔から誰でもが言った・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫