・・・この場合、私たちの肉体が乱暴なつめこみにたいしてつねにいやさを感じるとおり、精神のラッシュにたいしてつよい不服を感じ抗議を抱いている。精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 母親は、不服げに、十分意味はさとらず、然しぼんやりそれが何か不利を招くと直覚して黙り込む。だが、すぐ別のことから、同じ問題へ立ち戻る。 親たちの日常生活は勤労階級の生活でなく、母親は若い頃からの文学的欲求や生来の情熱を、自分独特の・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ けれども村の者達は、此の困難な往還に対して、何の不服も感じないのみか、却って、一種のよろこびさえも感じて居る。春の暖さが、地面の底から、しんしんとわき出して、永い冬の間中、いてついて、下駄の歯の折れそうになって居た土を、やわらげて行く・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・――感服したのではない。不服だった。大いに不服なのだが、この「転換時代」は非成功的作品にもかかわらず種々の発展的な問題を含んでいる。その問題の積極性が自分の注意を捕えた。 プロレタリア文学において、国際的主題はどう扱われるべきか。これが・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・一体日本で県より小さいものに郡の名をつけているのは不都合だと、吉田東伍さんなんぞは不服を唱えている。閭がはたして台州の主簿であったとすると日本の府県知事くらいの官吏である。そうしてみると、唐書の列伝に出ているはずだというのである。しかし閭が・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・栖方は、梶が武器に関する質問をしないのが不服らしく、梶の黙っている表情に注意して云った。「いや、それだけは見たくないなア。」と梶は答えを渋った。 栖方は一層不満らしく黙っていた。前後を通じて栖方が梶に不満な表情を示したのは、このとき・・・ 横光利一 「微笑」
・・・樗陰は、そうでしょう、そうでなくちゃならない、月同照は変ですよ、と得意だったが、漱石は、しかしそうなるとまことに平凡だね、といかにも不服そうだった。樗陰は、文句が違っていちゃしようがない、さあ書きなおしてください、と新しい紙を伸べた。漱石は・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫