・・・ 考えれば、いろ/\な不条理がこの社会に存しています。 こればかりでない。もし都会に不幸な家庭があったとします。そして、その家庭は、世間の人々の同情を受けるのに、充分値したとする。もし、そうした家庭があったなら、その家庭の事情は、都・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・再びその不条理な不安が、子のない妻たちをさいなもうとするのであろうか。 そうでなくても、子供のもてない不安で、これまで夫婦の生活に神経をつかっていた多くの妻たちは、この頃のような声々の中で、あるときはふっと、よそに生れる自分の良人の子供・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないものにしていた治安維持法が撤廃された記念すべき日も、近くふたたびめぐり来ようとしている。 わたくしたちは、こうして営々と三百六十五日を生きとおして今・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 現実の不条理からひきはなして、たとえばフランスのように小さい銀貨の上へ、友愛だの信義だの自由だのという文字を鋳りつけることは、云って見れば何とたやすいことだろう。 自分がほかならぬ一人の女として、この世代のうちに生きているというこ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・これらの国の女性は、ほんとうに有無をいわさず、愛情の懐から男たちを奪われ、野蛮と不条理で押しすすめた戦争のうちに愛する者たちを死なした。ファシズム・ナチズムの不条理と非人間らしさと戦って、それに勝利し、人間は最後には理性ある生きものであるこ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・この物語のなかでは、そのように人類の創意性のよろこびが評価されていると同時に、伝説というものがはからず示している過去の不条理というものにも明るい問いかけを投げている。パンドラという人類のはじめての女性が、人間生活のあらゆる憂苦をもたらしたと・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・自分たちの若い生命がそれに不条理を感じること、反撥すること、それをいくらかでも生活的に訂正して、より若い後からの世代につたえようとする姉らしいやさしさと勇気こそ、常に世代の姉妹としての私たち女の情愛ではないだろうか。 この頃、あちらこち・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・権力だからそれが出来たというならば、その不条理が不審でたまらないのであった。「もういいの?」「ああ、もういい」「――さっきの話――あの、がんばりのことだけれど、よく云って下すったわね」 重吉は、ちょっと改まった視線でひろ子を・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・われらは、不意に、陰険に、不条理に短期間、あるいは長期間自由を奪われる。林は、二年の間、そのようにプログラムをもって読書してもなおかつレーニニズム的発展は十分なし得ないような書籍しか自身に許可しなかった支配階級に対して、かつて一度の憤りをも・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・これらの人々にとってその不条理は、むしろ当然であったとも云える。なぜなら、この人たちは、当時の日本の支配者が、侵略戦争に対する批判や超国家主義への疑問を封じた、その立場によりたって、社会に階級があり文化に堕落性がある現代の歴史的事実を否定し・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
出典:青空文庫