・・・それで今度はお前から注文しなさいと言えば、西瓜の奈良漬だとか、酢ぐきだとか、不消化なものばかり好んで、六ヶしうお粥をたべさせて貰いましたが、遂に自分から「これは無理ですね、噛むのが辛度いのですから、もう流動物ばかりにして下さい」と言いますの・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 食うものばかりではない、見るもの聞くものまでがことごとく腹にたまって不消化を起こす自分などのような胃の弱い人間には、この男のような屈託のない顔は一生勉強してもとてもできそうもない。 六 お出額で鼻が小さくて・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・すぐ消化され吸収されるものばかりでなく、折々は不消化物も与えないと胃の機能が衰えるようなもので、実験中に起るべき種々の困難に出来るだけ遭遇させ、漸次これを除いて最後の結果に到着すると同時に、目的以外の現象にも注意してそれを等閑に附せないよう・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・云うならそれまでであるが、根拠のない好悪を発表するのを恥じて、理窟もつかぬところに、いたずらな理窟をつけて、弁解するのは、消化がわるいから僕は蛸が嫌だというような口上で、もし好物であったなら、いかほど不消化でも、だまって、足は八本共に平げる・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫