・・・しかし彼ならばそれを耳にはさんで黙っているだろうし、そしてそれが結局小作人らにとって不為めにはならないのを小作人たちは知りぬいているらしかった。彼には父の態度と同様、小作人たちのこうした態度も快くなかった。東京を発つ時からなんとなくいらいら・・・ 有島武郎 「親子」
・・・両親兄弟が同意でなんでお前に不為を勧めるか。先度は親の不注意もあったと思えばこそ、ぜひ斎藤へはやりたいのだ。どこから見たって不足を言う点がないではないか、生若いものであると料簡の見留めもつきにくいが斎藤ならばもう安心なものだ。どうしても承知・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・今の月が上弦だろうが下弦だろうが、今夜がクリスマスだろうが、新年だろうが、外の人間が為合せだろうが、不為合せだろうが構わないという風でいるのね。人を可哀いとも思わなければ、憎いとも思わないでいるのね。鼠の穴の前に張番をしている鸛のように動か・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・要するに原理は簡単で、物質的に人のためにする分量が多ければ多いほど物質的に己のためになり、精神的に己のためにすればするほど物質的には己の不為になるのであります。 以上申し上げた科学者哲学者もしくは芸術家の類が職業として優に存在し得るかは・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫