・・・しからずんば不謹慎な冷笑であった。ただそれら現代語の詩に不満足な人たちに通じて、有力な反対の理由としたものが一つある。それは口語詩の内容が貧弱であるということであった。 しかしその事はもはやかれこれいうべき時期を過ぎた。 ~~・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・けれども、もし、これは、めっそうもない、不謹慎きわまる、もし、ではあるが、もし、母がそうなったら、どうしよう。ひょっとしたら、私は、知らせてもらえるかも知れない。知らせてもらえなくても、私は、我慢しなければいけない。それは、覚悟している。恨・・・ 太宰治 「花燭」
・・・どうです、お嬢さんを等と不謹慎な冗談を言い出して、父は、いい加減に聞き流し、とにかく画だけは買って会社の応接室の壁に掛けて置いたら、二、三日して、また但馬さんがやって来て、こんどは本気に申し込んだというじゃありませんか。乱暴だわ。お使者の但・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・とても厳粛な筈の記念撮影に、ニヤリと笑うなどとは、ふざけた話だ。不謹慎だよ。どうして、こうなんだろうね。撮影の前のドサクサにまぎれて、いつのまにやら、ちゃんと最前列の先生の隣席に坐ってニヤリと笑っている。呆れた奴だ。こんなのが大きくなって、・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・しかしとにかくそういう種類の考えも、少なくも一つのヒントとしては役立つであろうと思うので、不謹慎のそしりを覚悟してついでに付記する次第である。 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・そこここに実際クスクス笑いだした不謹慎な人もあったようであった。しかしそれは必ずしも文学士その人に向けられた笑いばかりではおそらくなかったろうと思われる。この講堂建設以来この壇上で発せられた人間の声の中で、これくらい珍しいものはなかったに相・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 斯ういう不謹慎ないいようは余計に太十を惑わした。「そうよな」 と太十は首をかしげた。「どうせ駄目だから殺しっちまあべ」 威勢よくいった。そうかと思うと暫らく沈黙に耽って居る。「殺した方あよかんべな」 投げ出した・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ただあとから考えてみますと、あの手紙の末に書き添えました事だけが、いかにも不謹慎なようでございます。しかしあれは手紙が出来てしまってから、ふいと器械的に書いたのでございます。あのわたくしの顔がどうの姿がどうのと書きました、あの文句でございま・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫