・・・観聞志もし過ちたらんには不都合なり、王勃が謂う所などはどうでもよし、心すべき事ならずや。 近頃心して人に問う、甲冑堂の花あやめ、あわれに、今も咲けるとぞ。 唐土の昔、咸寧の吏、韓伯が子某と、王蘊が子某と、劉耽が子某と、いずれ華冑の公・・・ 泉鏡花 「一景話題」
・・・ それですからって、あんな所へ牛を置いて届けても来ないのは不都合じゃないか。 無情冷酷……しかも横柄な駅員の態度である。精神興奮してる自分は、癪に障って堪らなくなった。 君たちいったいどこの国の役人か、この洪水が目に入らないのか・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・一方の女を思い切らないで、人の婿になるちは大の不徳義だ、不都合きわまった話だ。婿をとる側になってみたまえ、こんなことされて堪るもんか」 こう言うのは深田贔屓の連中だ。「そうでないさ、省作だって婿になると決心した時には、おとよの事はあ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・種々の不都合、種々の反対に打ち勝つことが、われわれの大事業ではないかと思う。それゆえにヤコブのように、われわれの出遭う艱難についてわれわれは感謝すべきではないかと思います。 まことに私の言葉が錯雑しておって、かつ時間も少くございますから・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 私はことの意外に呆れてしまったが、果して間もなくあるビルディングの地下室にある理髪店へ行くと、金縁眼鏡をかけたそこの主人はあなたのような髪は時局柄不都合であると言って、あれよあれよと驚いている間に、私の頭を甲型か乙型か翼賛型か知らぬが・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ 性交は夫婦でなくてもできるが、子どもを育てるということは人間のように愛が進化し、また子どもが一人前になるのに世話のやける境涯では、夫婦生活でなくては不都合だ。それが夫婦生活を固定させた大きな条件なのだから、したがって、夫婦愛は子どもを・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・しかし大多数の読者がこの点について一通りの予備知識を備えているものと仮定してもおそらくたいした不都合はあるまいと思う。 ついでながら、自分のような門外漢がこの講座のこの特殊項目に筆を染めるという僣越をあえてするに至った因縁について一言し・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それをいわゆる文明人が出かけて行って単なる娯楽のためにムザムザ殺すのがどうも不都合だという気がしてくる。 酋長のむすこがライオンに食われる場面がある。あれはどうも映画師がほとんど計画的に食わせるように思われて不愉快であった。白人にとって・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・分子の集団から成る物体を連続体と考えてこれに微分方程式を応用するのが不思議でなければ、色の斑点を羅列して物象を表わす事も少しも不都合ではない。 もう少し進んで科学は客観的、芸術は主観的のものであると言う人もあろう。しかしこれもそう簡・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 通りすがりの旅人が金閣寺を見物しようとするには案内の小僧は甚だ重宝なものであるが、本当に自分の眼で充分に見物しようとするには甚だ不都合なものである。一通りの定まった版行で押した項目だけを暗誦的に説明してしまえばそれでもうおしまいで先様・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
出典:青空文庫