・・・お酒は、その朝、世田谷の姉のところへ行って配給の酒をゆずってもらって来たのだ。けれども、そんな実情を打明けたら、客は居心地の悪い思いをする。大隅君は、結婚式の日まで一週間、私の家に滞在する事になっているのだ。私は、大隅君に叱られても黙って笑・・・ 太宰治 「佳日」
・・・私は五月に世田谷区経堂の内科の病院に移された。ここに二カ月いた。七月一日、病院の組織がかわり職員も全部交代するとかで、患者もみんな追い出されるような始末であった。私は兄貴と、それから兄貴の知人である北芳四郎という洋服屋と二人で相談してきめて・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・―― He is not what he was. か。世田谷、林彪太郎。太宰治様。」 月日。「貴兄の短篇集のほうは、年内に、少しでも、校正刷お目にかけることができるだろうと存じます。貴兄の御厚意身に沁みて感佩しています。或いは・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・行進 キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので、午後二時以後なら、たいていひまだという。田島は、そこへ、一週間にいちどくらい、みなの都合のいいような日に、電話をかけて連絡をして、そうしてど・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・けれども私は伝染病患者として、世田谷区・経堂の内科病院に移された。Hは、絶えず私の傍に附いていた。ベエゼしてもならぬと、お医者に言われました、と笑って私に教えた。その病院の院長は、長兄の友人であった。私は特別に大事にされた。広い病室を二つ借・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ 鶴は会社の世田谷の寮にいた。六畳一間に、同僚と三人の起居である。森ちゃんは高円寺の、叔母の家に寄寓。会社から帰ると、女中がわりに立ち働く。 鶴の姉は、三鷹の小さい肉屋に嫁いでいる。あそこの家の二階が二間。 鶴はその日、森ちゃん・・・ 太宰治 「犯人」
・・・これで誘われて、世田谷の子供達にも毛糸をやろうと思いつきました。和服で育っていても調法だから。そちらへも広島から隆治さんの葉書はきましたか。こちらへ一昨日もらいました。何んてよかったでしょう。お母さんもこれでいいお正月がお出来です。私達同胞・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 当時はもう蔵原惟人の芸術論等が雑誌に出始めて居り、プロレタリア文学運動がそろそろ緒につきはじめていた頃でしたが、私は全くそういう方面には接触がなく、世田谷の駒沢の家で、毎日五枚位ずつこの小説を書いていました。 余談になりますが、こ・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
出典:青空文庫