・・・「温度の異なる二つの物体を互に接触せしめるとだね、熱は高温度の物体から低温度の物体へ、両者の温度の等しくなるまで、ずっと移動をつづけるんだ。」「当り前じゃないか、そんなことは?」「それを伝熱作用の法則と云うんだよ。さて女を物体と・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
・・・そうしてこれはしばしば後者の一つの属性のごとく取扱われてきたにかかわらず、近来(純粋自然主義が彼の観照の傾向は、ようやく両者の間の溝渠のついに越ゆべからざるを示している。この意味において、魚住氏の指摘はよくその時を得たものというべきである。・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・という法則にしたがうものであり、その結果として両者融合せる新しき「いのち」が生誕するのだ。 子どもの生まれることを恐れる性関係は恋愛ではない。「汝は彼女と彼女の子とを養わざるべからず」 学生時代私はノートの表紙に、こう書きつけて・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・マッターホルンの征服の紀行によって御承知の通りでありますから、今私が申さなくても夙に御合点のことですが、さてその時に、その前から他の一行即ち伊太利のカレルという人の一群がやはりそこを征服しようとして、両者は自然と競争の形になっていたのであり・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・落ち着くことを得ないのであるが、この旅にもまた、旅行上手というものと、旅行下手というものと両者が存するようである。 旅行下手というものは、旅行の第一日に於て、既に旅行をいやになるほど満喫し、二日目は、旅費の殆んど全部を失っていることに気・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・果、安心せよ、これは人間の骨ではない、しかしなんだかわからない、亜米利加の谷川に棲むサンショウウオという小動物に形がよく似ているが、けれども、亜米利加にいるそのサンショウウオは、こんなに大きくはない、両者の間には、その大きさに於いて馬と兎く・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・吝嗇卑小になりつつあるか、一升の配給酒の瓶に十五等分の目盛を附し、毎日、きっちり一目盛ずつ飲み、たまに度を過して二目盛飲んだ時には、すなわち一目盛分の水を埋合せ、瓶を横ざまに抱えて震動を与え、酒と水、両者の化合醗酵を企てるなど、まことに失笑・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・手近な歌集の中から口調のいいと思うのと、悪いと思うのとを選り分けて、おのおのに相当する曲線を画いてみて両者の間に何か著しい特徴が線の上から見えるかと思って調べてみた。何しろ僅少な材料であるから何事も確かな事は云われないが、ただ一つ二つ気の付・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・実在の三次元の空間の一次元を割愛してただ二次元の断面に限定する代わりに、第四次元たる時間を一次元空間に投射することによって時間の経過をわれわれの任意に支配するという考えは両者に共通のものと考えられる。器械的技巧の点においてはほとんど問題にな・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
映画のスクリーンの平面の上に写し出される光と影の世界は現実のわれらの世界とは非常にかけはなれた特異なものであって両者の間の肖似はむしろきわめてわずかなものである。それにもかかわらずわれわれは習慣によって養われた驚くべき想像・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
出典:青空文庫