・・・動もすればはやり勝ちな、一党の客気を控制して、徐に機の熟するのを待っただけでも、並大抵な骨折りではない。しかも讐家の放った細作は、絶えず彼の身辺を窺っている。彼は放埓を装って、これらの細作の眼を欺くと共に、併せてまた、その放埓に欺かれた同志・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・であり、小説を書くためには実地研究をやってみなければならぬと思い込んでいるらしく、小説家という商売は何でも実地に当ってみなくちゃならないし、旅行もしなければならないし、女の勉強もしなければならないし、並大抵の苦労じゃないですなと、変な慰め方・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・その素質がかくされていたのに過ぎない、つまりはその殻を脱ぎ捨てる切っ掛けを掴んだというだけの話、けれどその切っ掛けを掴むということが一見容易そうでその実なかなかむつかしくて、その動作の弾みをつけるのは並大抵のことではなかったと言うのである。・・・ 織田作之助 「道」
・・・外見は、物静で、ちんまりしているけれど、内部で、そういう些事に労する神経は並大抵でないらしい。なかなか窮屈なことと思う。 女の人が、総体経済家で、きれいずきで、家政的に育て上げられているのは、一寸傍から見れば、共に生活する男の人の幸福の・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
出典:青空文庫