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・・・「いいえ、いますよ、丸顔のね、髪の沢山ある、そして中形の浴衣を着て、赤い襦袢を着ていました、きっとですよ。」「待ちねえよ、赤い襦袢と、それじゃあ、お勘が家に居る年明だろう、ありゃお前もう三十くらいだ。」「いいえ、若いんです。」・・・
泉鏡花
「葛飾砂子」
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・・・古びた中形木綿の単物に、古びた花色縞博多の帯を締めている。 二人は黙って跡を附けた。月の明るい夜である。横山町を曲る。塩町から大伝馬町に出る。本町を横切って、石町河岸から龍閑橋、鎌倉河岸に掛る。次第に人通が薄らぐので、九郎右衛門は手拭を・・・
森鴎外
「護持院原の敵討」