・・・ 彼はほとんど叱りつけるように僕の言葉を中断した。「じゃなぜ歩いて行かないんだ? 僕などはどこまでも歩いて行きたくなれば、どこまでも歩いて行くことにしている。」「それは余りロマンティックだ。」「ロマンティックなのがどこが悪い・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・しかしそこでおまえの生活が中断するのを俺たちはすまなく思う。しかしその償いにともちゃんを得た以上、不平をいわないでくれ。な、そうしておまえは新たに戸部の弟として新生面を開いてくれ。俺たちはそれを待っているから。じゃさよなら。一同かわ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・そして、話が一寸中断したのを見計らって、急に近づいて、息子のことをきいた。「谷元はまだ残っとると云いよった。」と、坊っちゃんは、彼女に答えた。「試験はもうすんだんでござんしょうな。」「はあ、僕等と一緒にすんだんじゃが、谷元はまだ・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・多年の苦学と、前途の希望が中断されるというのがその理由である。そこにも、支配階級の立場と、当時の進取的な、いわゆる立身成功を企図したブルジョアイデオロギーの反映がある。「愛弟通信」を読み終って、これが、新聞への通信ということに制約された・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・ 私の空想の展開は、その時にわかに中断せられ、へんな考えが頭脳をかすめた。家庭の幸福。誰がそれを望まぬ人があろうか。私は、ふざけて言っているのでは無い。家庭の幸福は、或いは人生の最高の目標であり、栄冠であろう。最後の勝利かも知れない。・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・私の東京市の生活は、荻窪の下宿から、かばん一つ持って甲州に出かけた時に、もう中断されてしまっていたのである。 私は、いまは一箇の原稿生活者である。旅に出ても宿帳には、こだわらず、文筆業と書いている。苦しさは在っても、めったに言わない。以・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ しかし中等学校を卒業しないうちに学校生活が一時中断するようになったというのは、彼の家族一同がイタリアへ移住する事になったのである。彼等はミランに落着いた。そこでしばらく自由の身になった少年はよく旅行をした。ある時は単身でアペニンを越え・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・琵琶湖の東北の縁にほぼ平行して、南北に連なり、近江と美濃との国境となっている分水嶺が、伊吹山の南で、突然中断されて、そこに両側の平野の間の関門を形成している。伊吹山はあたかもこの関所の番兵のようにそびえているわけである。大垣米原間の鉄道線路・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・孕は地名で、高知の海岸に並行する山脈が浦戸湾に中断されたその両側の突端の地とその海峡とを込めた名前である。この現象については、最近に、土佐郷土史の権威として知られた杜山居士寺石正路氏が雑誌「土佐史壇」第十七号に「郷土史断片」その三〇として記・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・すると、拡声器の調節が悪いためか、歌がちょうど咽喉にでも引っかかるようにひっかかってぷつりぷつりと中断する。みんなが笑いだす。そういうことを何度も繰り返していた。 十五日の晩は雨でお流れになるかと思ったらみんな本館の大広間へ上がって夜ふ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
出典:青空文庫