・・・ 先生、姓は中江、名は篤介、兆民は其号、弘化四年土佐高知に生れ、明治三十五年、五十五歳を以て東京に歿した。二 先生の文は殆ど神品であった。鬼工であった、予は先生の遺稿に対する毎に、未だ曽て一唱三嘆、造花の才を生ずるの甚だ・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・大ウソ。中江種一。太宰さん。」 月日。「拝啓。その後、失礼して居ります。先週の火曜日にそちらの様子見たく思い、船橋に出かけようと立ち上った処に君からの葉書来り、中止。一昨夜、突然、永野喜美代参り、君から絶交状送られたとか、その夜・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 明治二十年一月中旬高知 中江篤介 撰 中江兆民 「将来の日本」
・・・界思想史について些の常識を有する者には小林氏の以上のようなロシア文学史についての見解はそれなり賛同しかねるであろうし、特に明治社会と文化との生成の間、全く未開のまま通過され異質のものに覆われてしまった中江兆民の時代の思想の意義を、抹殺してい・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・を書いたりしていた津田真道やその頃大いに活動していた中江兆民などとは、人生の見かたの方向に於ては対蹠的な立場に立つようになったのであった。明治二十年前後の一つのリアクシォンの時代は明治初年の啓蒙家たちの思想の進路に極めて微妙に作用しているの・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・ ――○―― 中江さんの場合、 彼女の快活そうな様子はどこから来るか。 ――○―― ○地震がひとに与えた大きな運命の狂いを背景として、いつも思って居た継母のことを書きたい。 ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・の作者の矢野龍溪にしろ中江兆民にしろ、主として新聞人として活躍していることである。作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に生じている。「金色夜叉」は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・当時の日本人の思索能力は、決して弱かったとはいえない。中江藤樹、熊沢蕃山、山鹿素行、伊藤仁斎、やや遅れて新井白石、荻生徂徠などの示しているところを見れば、それはむしろ非常に優秀である。これらの学者がもし広い眼界の中で自由にのびのびとした教養・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫