・・・ ちょうど段々中継の一土間、向桟敷と云った処、さかりに緋葉した樹の根に寄った方で、うつむき態に片袖をさしむけたのは、縋れ、手を取ろう身構えで、腰を靡娜に振向いた。踏掛けて塗下駄に、模様の雪輪が冷くかかって、淡紅の長襦袢がはらりとこぼれる・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・けれども、ことしの八月に、この海岸線の各部落を縫って走破する駅伝競走というものがあって、この郡の青年たちが大勢参加し、このAの郵便局も、その競争の中継所という事になり、青森を出発した選手が、ここで次の選手と交代になるのだそうで、午前十時少し・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・そして、たまに音楽の中継なども聴かすのであるが、どういうセットをつかっているのであるか、私のいた方のラジオでは第一放送と第二放送とがごっちゃになって聞えた。新響の放送であろうと思われるような交響楽が鳴り出して、諧調ある美しい音に神経が突然快・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・でお風呂につかってポーとしていたら、あっちこっちのラジオが急におぞましき音でオニワー何とか、何とか何とかワーッと鳴りたてたのでびっくりして耳を立てたら、それは、どこかで年男が節分の豆まきをしているのを中継しているのでした。何だか馬鹿らしく滑・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ソヴェトは五ヵ年計画で、ラジオの中継局とキノのステーションを何千と新しく造ろうとしている。各自の文化の向上のために、芝居よりキノと、ラジオが一番直截で費用がかからないで大衆的でよい。芝居は訓練された技術者が要る。また照明がなくてはなら・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・指導方針によって放送審議会がこの大綱を定め、中継番組は放送編成会が働き、ローカル番組は各地の放送局長が具体化するという仕組みになっているのである。 こういう手順で我々の聴くラジオは目下一日平均一四時〇九分間放送されているのである。プログ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫