・・・科学に対する興味を養成するには、六かしくて嘘だらけの通俗科学書や浅薄で中味のないいわゆる科学雑誌などを読んでもたいして効能はない。むしろ日常身辺の自分に最も親しい物質の世界の事柄を深く注目し静かに観察してその事柄の真相をつき止めようという人・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・この壺の中味が問題になるのであろう。 粘土がなくては陶器はできないが粘土があっただけではやはり陶器はできない。これはあたりまえである。しかしこのあたりまえな事が時々忘却されるためにいろいろな問題が起こることがある。 ある哲学者が多年・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・上記のシバテンはまた夜釣りの人の魚籠の中味を盗むこともあるので、とにかく天使とはだいぶ格式が違うが、しかし山野の間に人間の形をした非人間がいて、それが人間に相撲をいどむという考えだけは一致している。 自分たちの少年時代にはもう文明の光に・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・われわれは先祖代々の宗教を守っているのに、土人の中には少し金ができるとすぐイギリス人のまねをして耶蘇信者になるのがある、あれはいけない、どの宗教でもつまり中身は同じで、悪い事をすな、ズーグードと言うだけの事だ、などと一人で論じていた。ヴィク・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 罪悪と反対な人間の善行に関する記事もまれには見受けるが、それがひとたび新聞記事となって現われると不思議にその善い事の「中味」が抜けてしまって、妙にいやな気持ちの悪い「輪郭」だけになっている場合がかなり多いように思われる。そういう種類の・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・差別の要点は記事の内容の現実性にあると考えてみても、読者自身に切実な交渉のない、しかもいわゆる定型のためにかえって真実性の希薄になった社会記事と、事実はどうでも人間の中身にいくらか触れている小説や風聞録との価値の相違はそう簡単には片付けられ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・形といわんよりはむしろ輪廓である。中味のないものである。中味を棄てて輪廓だけを畳み込むのは、天保銭を脊負う代りに紙幣を懐にすると同じく小さな人間として軽便だからである。 この意味においてイズムは会社の決算報告に比較すべきものである。更に・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・このくらいにしてここに張り出した「中味と形式」という題にでも移りますかな。 第一、題からしてあまり面白そうには見えません。中味は無論つまらなそうです。私は学会の演説は時々依頼を受けてやる事がありますが、こう云う公衆、すなわち種々の職業を・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・「皮ばかりで中味のない方がいいくらいなものかな。やっぱり、金があり過ぎて、退屈だと、そんな真似がしたくなるんだね。馬鹿に金を持たせると大概桀紂になりたがるんだろう。僕のような有徳の君子は貧乏だし、彼らのような愚劣な輩は、人を苦しめるため・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・バスケットの中味を覗いたのたあ違うかい? 冗談じゃあねえぜ、余りやり方がしぶといや。薄っ気味が悪いや。何だい、馬鹿にしてやがら、未だ小僧っ子じゃないか。十七かな、八かな。可愛い顔をしてらあ、ホラ、口ん中に汗が流れ込まあ」 彼は、暫く凭れ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫