・・・内幸町の新しい船のような白い『都』の建物は中身がどうなっているでしょう。それでも細かく一頁を使って、いくらか特色をとどめているから可愛ゆいと思います。十何年来買ったことのなかった色々の月刊雑誌も寄贈をやめましたから、このことも様子が違います・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ひとあしポーンとけってから丁稚のおもちゃにやっちまうさんざんけられてでこぼこになって中味の出た時にかまどの地獄になげられる、……だるまと生れたかなしさに逃げ出そうにも足はなしむざむざひどい目に合って死・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・働いている者が一人もなかったため、小僧働きの環境はいつも手近な縁を辿って都市的な小市民的雰囲気に限られていたこと、その窒息的に濃い重い執こい空気の中で少年ゴーリキイが、天成の素質の健康さによって二六時中身をもがきつつ、而も成長の或る時期迄避・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・あれほど一字一句の使い方、置き方に気を配った歌、あれほど浮いたところのない、中味のびっしりとつまった歌、またあれほど濃かいニュアンスを出した歌が、技巧に熟達せずに作れるものではない。しかし先生の歌は、その巧みさを少しも感じさせないほど巧みな・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫