・・・例えば、志賀直哉の文学の影響から脱すべく純粋小説論をものして、日本の伝統小説の日常性に反抗して虚構と偶然を説き、小説は芸術にあらずという主張を持つ新しい長編小説に近代小説の思想性を獲得しようと奮闘した横光利一の野心が、ついに「旅愁」の後半に・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・これには大庭家でも大分苦情があった、殊にお徳は盗棒の入口を造えるようなものだと主張した。が、しかし主人真蔵の平常の優しい心から遂にこれを許すことになった。其方で木戸を丈夫に造り、開閉を厳重にするという条件であったが、植木屋は其処らの籔から青・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・シェーラーはさらに価値の等級を直観するアプリオリの等級感があるといい、ある意欲対象である価値が、他の意欲のそれといずれが善であるかはこの等級感によってアプリオリに直覚されると主張する。シェーラーを継承してさらに発展せしめたニコライ・ハルトマ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・めまぐるしい文学上の主張や流行の変化を田舎にいて一々知り得る由もないが、わけてもこの頃のあわただしさは、東京にいても、二三カ月仕事に打ちこんで新刊の雑誌新聞に目を通すひまなしにいようものなら、取り残されて分らなくなるのではあるまいか。 ・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・そこで与一は赤沢宗益というものと相談して、この分では仕方がないから、高圧的強請的に、阿波の六郎澄元殿を取立てて家督にして終い、政元公を隠居にして魔法三昧でも何でもしてもらおう、と同盟し、与一はその主張を示して淀の城へ籠り、赤沢宗益は兵を率い・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・兄は、笑いながら主張した。 その兄が、いま、そっと眼鏡をはずしたのである。私は噴き出しそうなのを怺えて、顔をそむけ、見ない振りをした。 兄は、京橋の手前で、自動車から降りた。 銀座は、たいへんな人出であった。逢う人、逢う人、みん・・・ 太宰治 「一燈」
・・・ユダヤ民族を集合して国土を立てようというザイオニズムの主張者としてさもありそうな事である。桑木理学博士がかつて彼をベルンに尋ねた時に、東洋は東洋で別種の文化が発達しているのは面白いといったような事を話したそうである。この点でも彼は一種のレラ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・それに弱者や低能者にはそれ相当の理窟と主張があって、それに耳を傾けていれば際限がないのであった。 辰之助もその経緯はよく知っていた。今年の六月、二十日ばかり道太の家に遊んでいた彼は、一つはその問題の解決に上京したのであったが、道太は応じ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・富の分配の不平等に社会の欠陥を見て、生産機関の公有を主張した、社会主義が何が恐い? 世界のどこにでもある。しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・私は是非とも、新に二度目の飼犬を置くように主張したが、父は犬を置くと、さかりの時分、他処の犬までが来て生垣を破り、庭を荒すからとて、其れなり、家中には犬一匹も置かぬ事となった。尤も私は、その以前から、台所前の井戸端に、ささやかな養所が出来て・・・ 永井荷風 「狐」
出典:青空文庫