・・・という一種の技巧論を信じているから、例えば映画でも、息も絶え絶えの状態にしては余りに声も大きく、言葉も明瞭に、断末魔の科白をいやという程喋ったあげく、大写しの中で死んで行く主演俳優の死の姿よりも、大部屋連中が扮した、まるで大根でも斬るように・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・前にヤニングス主演の「激情のあらし」でやはり花火をあしらったのがあった。あの時は嫉妬に燃える奮闘の場面に交錯して花火が狂奔したのでずいぶんうまく調和していたが、今度のではそういう効果はなかったようである。しかし気持ちの転換には相当役に立って・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ベルクナー主演の「女の心」の一場面で食卓の上にすみれの花を満載した容器が置いてある、それをアリアーネが鼻をおっつけて香をかいだりいじり回したりするのであるが、はじめは自分にはそれがなんだかよくわからなくて、葡萄でも盛ったくだもの鉢かと思って・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・はかつてスタンバーク監督ディートリヒ主演の映画を見ていたので、それとこれとを比較して見るという興味があった。さて「高等中学」の教室に現われた教授ウンラートはと見ると、遠方から見たいったいの風貌がエミール・ヤニングスの扮した映画のウンラートに・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・現在のアメリカでチューインガムがどれだけ流行しているかは知らないが、映画などの中に時々これが現われるし、モーリス・シュヴァリエー主演のチューインガムを主題とした映画が昨年あたり東京で封切されたくらいであるから、おそらく今でも相当の命脈を保っ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
パァル・バックはアメリカ人であるが中国で成長して、中国の生活を小説にかく婦人作家である。彼女の作品をまだよまない人でもポール・ムニとルイゼ・ライナーが主演している「大地」は見物したであろうと思う。ひところ、あの映画もこの頃・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・―― 今夜本当は帝劇へベルクナーという女優が主演している女の心という映画を見に行こうかと思っていたのでしたが、家の中をコトコト動いていたので駄目。新交響楽団のベートウベンをずっときいているのですが、今度はパスをくれそうです。そうしたらう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が、ニューヨークへついて間もなくオタフク風に・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ ポール・ムニとルイズ・レイナアとが主演している映画の「大地」は中国を背景として製作されたアメリカ映画中の傑作であった。映画の圧倒的好評につれて、第一書房は出版当時はそれぞれ分冊として発売していたパアル・バック夫人の「大地」「母」「・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫