・・・「古風だわね。久保田さんに頂いたのよ。」 その後から――何が出て来ても知らないように、陳はただじっと妻の顔を見ながら、考え深そうにこんな事を云った。「これは皆お前の戦利品だね。大事にしなくちゃ済まないよ。」 すると房子は夕明・・・ 芥川竜之介 「影」
僕の知れる江戸っ児中、文壇に縁あるものを尋ぬれば第一に後藤末雄君、第二に辻潤君、第三に久保田万太郎君なり。この三君は三君なりにいずれも性格を異にすれども、江戸っ児たる風采と江戸っ児たる気質とは略一途に出ずるものの如し。就中・・・ 芥川竜之介 「久保田万太郎氏」
・・・ それと同じでんで、大阪を書くということは、例えば永井荷風や久保田万太郎が東京を愛して東京を書いているように、大阪の情緒を香りの高い珈琲を味うごとく味いながら、ありし日の青春を刺戟する点に、たのしみも喜びもあるのだ。かつて私はそうして来・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・そこへ久保田万太郎があらわれた。その店の、十の電燈のうち七つ消されて、心細くなったころ、鼻赤き五十を越したくらいの商人が、まじめくさってはいって来て、女中みんなが、おや、兄さん、と一緒に叫んで腰を浮かせた。立ちあがって、ちょっとかれに近づき・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・In a word 久保田万太郎か小島政二郎か、誰かの文章の中でたしかに読んだことがあるような気がするのだけれども、あるいは、これは私の思いちがいかも知れない。芥川龍之介が、論戦中によく「つまり?」という問を連発して論敵をな・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・「島木赤彦」「久保田俊彦」という名前や、また作歌文章などを通して私の自然に想像していた島木さんは、どちらかと云えば小柄な体格をもった人でありましたが、御目にかかってみると私の想像よりはずっと大きい体格のように思われました。 それからこの・・・ 寺田寅彦 「書簡(1[#「1」はローマ数字1、1-13-21])」
・・・ センセーショナリズムに対して抵抗を失った風俗文学の条件反射は、人情と芸大事の宗匠、里見や久保田万太郎などまでをいつかその創作のモティーヴのとらえかたにおいて影響しているように見える。由起しげ子の小説「警視総監の笑い」のモデルであったと・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 酉の下刻に西丸目附徒士頭十五番組水野采女の指図で、西丸徒士目附永井亀次郎、久保田英次郎、西丸小人目附平岡唯八郎、井上又八、使之者志母谷金左衛門、伊丹長次郎、黒鍬之者四人が出張した。それに本多家、遠藤家、平岡家、鵜殿家の出役があって、先・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・そして名刺入から、医学士久保田某と書いた名刺を出してわたした。 ロダンは名刺を一寸見て云った。「ランスチチュウ・パストョオルで為事をしているのですか。」「そうです。」「もう長くいますか。」「三箇月になります。」「Avez・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫