・・・彼等が担架に乗せるとて血でぬる/\している両脇に手をやると、折れた骨がギク/\鳴った。「まだ生きとる。」 監督は念を押して、繰かえした。 三ツの屍は担架に移された。それから竪坑にまでかついで行かれ、一ツ/\ケージで、上に運びあげ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・緑の箱の上に、朱色の箱を一つ重ねて、手のひらに載せると、桜草のように綺麗なので、私は胸がどきどきして、とても歩きにくかった、というような事を書いたのでしたが、何だか、あまり子供っぽく、甘えすぎていますから、私は、いま考えると、いらいらします・・・ 太宰治 「千代女」
・・・すると彼奴め、兵を乗せる車ではない、歩兵が車に乗るという法があるかとどなった。病気だ、ご覧の通りの病気で、脚気をわずらっている。鞍山站の先まで行けば隊がいるに相違ない。武士は相見互いということがある、どうか乗せてくれッて、たって頼んでも、言・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・そして頭部の線の集団全体を載せる台のような役目をしていると同時に、全体の支柱となるからだの鉛直線に無理なく流れ込んでいる。それが下方に行って再び開いて裾の線を作っている。 浮世絵の線が最も複雑に乱れている所、また線の曲折の最もはげしい所・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・回転台の上へ一塊の陶土を載せる。そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の上に来るように塩梅するらしい。それが、多年の熟練の結果であろうが、はじめひょいと載せただけでもう第一近似的にはちゃんと正しい位置におかれている、それで、あ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・しかし今ここでその表の一小部分でも載せることは紙面の制限上到底許されない。それでここではただ現在陸地測量部地形図の恩恵をこうむりながらそれを意識していない一般の読者に、そうした隠れた貢献者が一枚一枚の図葉の背後に存在することを指摘し注意を促・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・あるいはまた夜の寝床に先ず男を寝かした後、その身は静に男の羽織着物を畳んで角帯をその上に載せ、枕頭の煙草盆の火をしらべ、行燈の燈心を少しく引込め、引廻した屏風の端を引直してから、初めて片膝を蒲団の上に載せるように枕頭に坐って、先ず一服した後・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・自動車の御者になってお客を乗せれば――もっとも自動車をもつくらいならお客を乗せる必要もないが――短い時間で長い所が走れる。糞力はちっとも出さないですむ。活力節約の結果楽に仕事ができる。されば自動車のない昔はいざ知らず、いやしくも発明される以・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・人力も人を載せる。電車も人も載せる。両者を知ったものが始めて両者の利害長短を比較するの権利を享ける。中学の課目は数においてきまっている。時間の多少は一様ではない。必要の度の高い英語のごときは比較的多くの時間を占領している。批評の条項について・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・その頃流行る楽人の姿となって夜鴉の城に忍び込んで、戦あるべき前の晩にクララを奪い出して舟に乗せる。万一手順が狂えば隙を見て城へ火をかけても志を遂げる。これだけの事はシーワルドから聞いた、そのあとは……幻影の盾のみ知る。 逢うはうれし、逢・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫